川崎学舎が育む「考える力」|小学6年生「国語」の授業レベル
- 川崎学舎@info
- 4月9日
- 読了時間: 8分
こんにちは!
川崎学舎で国語を担当している門野坂です。
学舎には、市立川崎附属中学への進学を目指す小学生が多く通ってくれています。
市立川崎附属中の適性検査では、単なる知識の暗記ではなく、課題文を深く読み解いて自分の考えを論理的に表現する力が問われます。
だからこそ、川崎学舎の国語の授業では「作文力」と「思考力」の育成に並々ならぬこだわりを持って取り組んでいます。

市立川崎附属中合格を超えて、作文と思考力を徹底的に鍛えたい理由
僕は「書くこと」「考えること」に強い意義を感じています。
これらの力が、単に受験を突破するためだけでなく、子どもたちがこれからの予測困難な社会を生きていく上で、自分自身の人生を豊かに切り拓くための根幹になると信じているからです。
自分の考えを言葉にする。
他者の意見に耳を傾け、対話し、さらに思考を深める。
このプロセスを通じて、子どもたちはひとつの物事を多角的に捉え、自分なりの価値観を築き上げていきます。市立川崎附属中(ひいては早慶附属高校といった難関校)が求める力も、まさにこの「多様で深い思考力」にあると僕は考えています。
だから、川崎学舎では、安易な答えを教えるのではなく、生徒1人1人が粘り強く考え抜けるよう、手厚く、時に厳しく(笑)、寄り添いながらサポートすることを大切にしています。
驚くべき小学6年生の成長|ライトな小説から深いエッセイへ
現在、川崎学舎に通う小学6年生たちの成長には、目を見張るものがあります。
昨年度、彼らが小学5年生だった頃の春休みには「短編小説でビブリオバトル」に挑戦してもらいました。
続く冬休みには、さらにレベルアップして「長編小説でビブリオバトル」に挑んでもらいました。より複雑な物語構造やテーマを読み解き、自分の言葉で紹介する力が格段に向上しました。
そして、小学6年生の春休みには、春季特別期間の集大成として「深いエッセイを、わかりやすく面白く伝える」という、かなり高度な課題に取り組んでいます。
正直、大人でも難しいこの課題に、彼らは一生懸命取り組み、質の高い論考をしてくれています。
「小6の思考力のレベル高けえなあ」と感心することが多くなりました。
授業で少し難しい文章を取り上げても、表層的な理解にとどまらず、その深い考察を語り始める。むしろ、その方が彼らの知的好奇心を刺激し、目を輝かせることすらあるのです。
講師も見本を示す|『ここじゃない世界に行きたかった』を読み解く
そんな彼らに向き合う僕自身も、常に学び続けなければならないと痛感しています。彼らに「深く考えろ」と言うからには、まず自分自身がその姿勢を示さなければ、言葉に説得力は宿らないかなあと思うからです。
そこで今回、「エッセイ紹介」の見本となるべく、僕自身が最近読んで心を動かされたエッセイ集について、その面白さや考えさせられた点を文章にしてみました。塩谷舞さんの『ここじゃない世界に行きたかった』という1冊です。

以下は、僕が見本として書いた内容です。
生徒たちにも、これくらいの深さで物事を捉え、自分の言葉で表現してほしい、という願いを込めて文章を綴りました。
※ちょっと加筆修正しました🙇
塩谷舞『ここじゃない世界へ行きたかった』を読んで
▼本書の概要
『ここじゃない世界に行きたかった』は、著者の塩谷舞さんが29歳で日本を離れてアメリカのニューヨークで暮らし始めた経験をもとに書かれたエッセイ集です。自分が慣れ親しんだ環境を離れ、異なる文化や価値観に触れることで、これまで当然だと思っていたことが揺さぶられていきます。SNSが当たり前になった現代の人間関係や、新しい土地での孤独や戸惑い、美しさや豊かさの本質とは何かという問いに向き合いながら、自分らしい生き方を模索していく過程が描かれています。塩谷さん自身のニューヨーク生活を通して、BLM運動や大統領選挙など、社会的なテーマにも鋭い視点を向けているのが特徴だと思いました。
▼印象に残っているエピソードや具体例
「ニューヨークで暮らすということ」というセクションが印象に残っています。塩谷さんは、東京での生活に疲れてしまい「知らない世界に行ってしまいたいな」という願望を抱くようになります。しかし、ニューヨークで待っていたのは、東京よりも厳しい生活と言葉が伝わらない苦痛です。なにより辛かったのは、周りと比べて自分が何をしたいかが不明瞭であるという現実。自分がやりたいことを話し、自分の夢のためにニューヨークに集まった中で、自分1人だけが「やりたいことは探し中」と話すしかない惨めさに涙したそうです。また、忙しかった東京とは異なり、家の中にいることが多かった塩谷さんは、素材にこだわったインテリアに興味が向くようになったころを「小さき声」が聴こえてくるようになったと表現している箇所も印象的でした。
▼どうしてその箇所が印象に残ったのか
きっと、僕自身もどこかに行けば、何かが変わるという妄想を抱いていたからです。川崎という街を抜けて、どこか別の都市に行けば、もっとビッグな自分になれるはず。そういう妄想から少し解放された気がします。目の前にあることを必死にやる。僕の場合だったら、昔からやりたいと言っていた子どもたちへの作文の指導。これらの経験の蓄積が、きっと僕を新しい世界だったり、新しい視座へと導いてくれたりするのではないかと思わせてくれました。少なくとも、場所が変わって自分が劇的に変わるだなんてことはないと思います。
一方、矛盾ではなく、それでも旅行としてどこか遠い場所へは行ってみたいという願望もあるのです。26歳になった今、人間性は大きく変わらないかもしれないけれど、物事の見方が変わるということはまだまだあると思うからです。僕が、家具のような「小さき声」に耳を貸す場面などイメージが湧きません。それでも、他国や他の場所に足を運ぶことで、今まで考えもしなかったことに目が向くようになった経験は今までいくつもあります。
▼理由に類似するような経験
何かやってやりたいと願っていた20歳の頃、僕はベトナムに行ったことがあります。高校時代から面白いと思っていた友人がベトナムに留学していたことがきっかけでした。ところが、ベトナムに行ったから何かが変わったなどという気は全くしませんでした。2週間近く滞在したにもかかわらず、千葉県の端に行ったのと、さして何も変わらない気分で羽田空港第三ターミナルから帰宅したことを覚えています。しかし、ベトナムで視点が磨かれていたと気づけたのは、1年が経過してからでした。大学3年生の社会科教員志望向けの授業で、好きな単元を取り扱ってよいことになったとき、誰よりも早く第二次世界大戦後の授業に手を挙げていたのです。ベトナム戦争について扱えると気づいた瞬間、反射的に「やりたい」と思ったのでしょう。その速度に、周りにいた学生から引かれたことを覚えています。旅行の予定には入っておらず、ふらっとベトナム戦争証跡博物館に足を運んだ経験が、知らず知らずのうちに僕の感性に衝撃を与えていたようです。奇形児たちの標本から、お金と見栄のために他国に迷惑をかけるような戦争は控えるべきなのではないかという強いメッセージを受け取っていたのです。
▼本書が伝えたいこと
本書が一貫して伝えようとしているのは、「自分とは違う世界を知ることの大切さ」ではないでしょうか。塩谷さんは日本という自分の「居場所」を離れたことで、自分の中の常識がいかに小さな枠の中で作られていたかを痛感します。文化や価値観が違う人々と触れ合う中で、自分の視野が広がり、多様な生き方があることを深く理解していくのです。またSNS時代の表面的なつながりに流されず、自分自身が本当に大切にしたい価値観や美意識を持つことが、より豊かな人生を送る上で重要だというメッセージが込められています。「ここじゃない世界」を知ろうとする勇気が、自分自身を深く知るきっかけになるのではないかと読み解きました。
川崎学舎が目指す国語|深く考え、自分の言葉で表現する力を
…と、少し長くなってしまいましたが、僕がこのエッセイから読み取ったのは、以上のようなことです。
川崎学舎の小学6年生たちにも、このように一つの文章や出来事に対して、「なぜそう感じたのか?」「自分の経験とどう結びつくか?」「そこから何を学べるか?」と、多角的に、そして深く掘り下げて考える姿勢を身につけてほしいと願っています。
それは、単に文章を要約したり正解を選んだりするレベルを超えた、本質的な「国語力」です。
もちろん、最初から完璧にできる子はいません。
対話を通して、生徒たちの思考を刺激し、表現力を磨いていく。
手厚い対話時間こそが、川崎学舎の強みだと自負しています。
市立川崎附属中や早慶附属高校といった高い目標を持つ生徒にとって、このような深く考える訓練は不可欠です。そして、その過程を楽しみながら、知的な探究心を育める場所でありたい。それが、川崎学舎の目指す国語教育です。
おわりに|考えることを楽しむ場所へ
今回は、小学6年生の国語の授業について語らせていただきました。
「思考は現実化する」という言葉がありますが、僕はまず「考えること」そのものが、人生を豊かにする営みだと信じています。
川崎学舎が、子どもたちにとって、ただ知識を詰め込むだけでなく、「考えることって面白い!」「自分の言葉で表現するって楽しい!」「だから、もっと新しいことを知りたい」と感じられる場所であり続けられるようにサポートしていきたいと思います。

門野坂
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